共和政期における青銅貨

B.C.5世紀〜B.C.4世紀
鋳型の貨幣:アエス・ルーデAES RUDE(青銅の塊)


周辺のギリシア植民都市では、鋳造貨幣が利用されていたにも拘らず、古代ローマが農業社会であったことから貨幣の鋳造は、必要とされませんでした。それでも家畜中心の物々交換取引から青銅の塊(重量によって価値が変わる)の取引へ移行していきました。 当時青銅は、農具、武器等の材料として流通していました。

貨幣の種類素材重量
(目安)
備考
  AES・RUDE青銅8g〜300g公的な証明や価値の表示等はなく純粋な金属の塊

Photo説明Photo
B.C.4世紀以前の製造。表面に少量の泥が付着していますが 表面はグリーンパテナで覆われています。非定形な鋳型で鋳造されたブロンズの断片です。

写真提供:Classical Numismatic Group, Inc. (CNG)





B.C.289年頃〜B.C.241年
鋳型の貨幣:アエス・シグナトゥムAES SIGNATUM
(鋳型で造られた青銅の桿状、棒状貨)


この頃になると商取引が活発となり都度アエス・ルーデの重さを量っている場合ではなく定量型の新しい貨幣が要請されアエス・シグナトゥムが造りだされました。 貨幣の片面や両面に動物等がデザインされたことがシグナトゥムの語源にもなっています。


貨幣の種類素 材重量
(目安)
備考
AES SIGNATUM青銅およそ1600g前後価値:5アス同等もしくは5ローマ・ポンド
1アス=324g

1ローマ・ポンド=327.45g
(参照:古代ローマを知る事典)

Photo説明Photo
B.C.280〜B.C.240年頃、鋳造されたアエス・シグナトゥムです。
重量170g。コインの表裏とも雄牛が描かれています。状態:GoodVF。
 参考:重量的には不十分なのですが見本となるコインの映像が手に入らぬほどにレアです。ちなみに大英博物館にはコイン表裏に象と豚がそれぞれに描かれたものが所蔵されています。長さ170cm、重量1746gと十分な迫力を誇るシグナトゥムです。

写真提供:Classical Numismatic Group, Inc. (CNG)





B.C280年頃〜B.C.211年
鋳型の貨幣:アエス・グラーウェAES GRAVE(重い青銅)
  
第一段階がB.C280年頃〜B.C.225年
第二段階がB.C225年〜B.C.211年の2段階で分類しています。



B.C280年頃〜B.C.225年 

ローマの土地の拡張に伴って人口も飛躍的に増大をした時期です。
サムニウム戦争の勝利後は、B.C.290年サビニ人を征服、B.C.272年タレントゥムを陥落、B.C.264年から始まる第一次ポエニ戦争と狭い範囲で活動した農業社会のローマから地中海の覇権を握る第一歩へと踏み出していきました。
土地は、B.C.340年6,400km2⇒B.C.264年27,000km2へ拡張され 人口は、B.C.340年38,500人⇒B.C.264年292,000人へと膨れ上がっていき経済活動も活発となり貨幣制度の変更が必須となっていきました。
アエス・シグナトゥムからさらに効率的なアエス・グラーウェやドラクマ銀貨へと移行していきました。


貨幣の種類素材重量
(目安)
価値時代区分
  Tressis青銅765g  3アス269〜225B.C.
  Dupondiusu青銅530g  2アス269〜225B.C.
  As青銅324g※1
265g
  12 Uncia280〜269B.C.
269〜225B.C.
  Semis青銅162g
132.5g
  6 Uncia280〜269B.C.
269〜225B.C.
  Triens青銅108g
88.3g
  4 Uncia280〜269B.C.
269〜225B.C.
  Quadrans青銅81g
66.3g
  3 Uncia280〜269B.C.
269〜225B.C.
  Sextans青銅54g
44.2g
  2 Uncia280〜269B.C.
269〜225B.C.
  Uncia青銅27g
22.1g
  1 Uncia280〜269B.C.
269〜225B.C.
  Semuncia青銅13.5g
11g
  1/2 Uncia280〜269B.C.
269〜225B.C.

※ 1:ライブラル スタンダード(古代ローマの衡量)に基づいたDavid R.Sear氏の1アス=324gで表を作成しています。
※2:重量(目安)とさせていただいているのは、現物コインの重量が少しはずれたものが鋳造されています。対象の50〜60年間は、時代的に急速な変化を伴っているので安定的な鋳造が行えていないようです。



B.C.225年頃〜B.C.211年 

第二次ポエニ戦争直前から発行され特徴的なことは、コイン裏面にガレー船の舳先が必ずデザインされていることです。

貨幣の種類素材重量
(目安)
価値時代区分
  Decussis青銅未確認※1  10アス215〜211B.C.
  Quincussis青銅未確認※1  5アス225〜211B.C.
  Tressis青銅349g※2  3アス215〜211B.C.
  Dupondiusu青銅326〜257g※2  2アス215〜211B.C.
  As青銅280〜240g※3
150〜57g
  12 Uncia225〜217B.C.
225〜211B.C.
  Semis青銅132g
 66g
 44g
  6 Uncia225〜217B.C.
217〜215B.C.
215〜211B.C.
  Triens青銅 88g
 44g
 29g
  4 Uncia225〜217B.C.
217〜215B.C.
215〜211B.C.
  Quadrans青銅 66g
 33g
 22g
  3 Uncia225〜217B.C.
217〜215B.C.
215〜211B.C.
  Sextans青銅 44g  2 Uncia225〜217B.C.
  Uncia青銅 22g  1 Uncia225〜217B.C.

※1 カタログ、取引市場で確認後に記入予定。
※2 カタログ、取引市場で確認。
※3 第二次ポエニ戦争や急速な経済発展により重量減が大幅に進みます。




B.C273年頃〜B.C.225年頃
打刻型青銅貨:リトラ LITRAE
  

南部イタリアの諸都市(マグナ・グラエキア)との取引にローマの発行する鋳型アエス・グラーウェが使えず新たに打刻型青銅貨を3種類発行しました。
通貨単位:リトラは、シチリア島でBC5世紀頃ギリシアとは全く異なる形で鋳造を開始されています。
B.C.273年頃〜B.C.225年の期間には通貨単位がリトラの貨幣を南部イタリア、シチリア島でほとんど確認できません。BC270年にローマがイタリアをほぼ制圧することに成功しシチリア島でもシチリア・シラクサ王ヒエロンU世がBC263年ローマへの服従を表明し青銅貨を中心に貨幣システムを組み立てたからでしょうか。
しかし、ヒエロンU世が亡くなるとシチリアでは再びリトラ銀貨・青銅貨の鋳造が再開されています。

貨幣の種類素材重量
(目安)
時代区分
  Double Litra青銅11.5〜7.3g273〜270B.C.
  Litra青銅3.7〜2.4g241〜225B.C.
  Halh Litra青銅2.1〜1.2g235〜230B.C.
※ アエス・グラーウェと直接の価値比較は難しいのですが、同時期に同目的でローマが鋳造した2ドラクマ銀貨がおよそ6.7g、全盛期のシチリアの10リトラ(2ドラクマ)の標準的重量8.6g、1リトラの青銅貨重量:12g、BC220年以降にシチリア島で鋳造された1リトラ銀貨がおよそ0.86gということを考慮するとローマの重量が少なめに設定されているということが言えそうです。



B.C.217年頃〜B.C.211年頃
打刻型貨幣:アエス・グラーウェを踏襲した打刻型青銅貨
  (本格的な打刻型貨幣発行に向けた試行期間)

BC218年第二次ポエニ戦争が勃発によりハンニバルがイタリア侵攻を始めた時期です。ローマ共和政は、経済危機に陥り主力の青銅貨幣アエス・グラーウェが標準的重量のおよそ半分の132gで製造せざるを得ない状況に追い込まれました。

貨幣の種類素材重量
(目安)
価値時代区分
  Semis青銅 35g  6 Uncia215〜211B.C.
  Triens青銅  50g
 20〜28g
  4 Uncia217〜215B.C.
215〜211B.C.
  Quadrans青銅  38g
 12〜22g
  3 Uncia217〜215B.C.
215〜211B.C.
  Sextans青銅  25g
 9〜15g
  2 Uncia217〜215B.C.
215〜211B.C.
  Uncia青銅  13g
 5〜10g
  1 Uncia217〜215B.C.
215〜211B.C.
  Semuncia青銅  6〜7g
 4〜5g
  1/2 Uncia217〜215B.C.
215〜211B.C.




B.C.211年頃〜B.C.82年頃
打刻型貨幣:本格的な打刻型青銅貨
  


アスをメインに6種類の青銅貨で組み立てられ製造されデザインもパターン化されたもので製造されるようになります。BC2世紀の中ごろになると貨幣製造担当官の名前や独自の文字が打刻されたものが発行されるようになりました。

貨幣の種類素材デザイン重量
(目安)
価値時代区分
  As青銅表:ヤヌス神
裏:ガレー船の舳先
〜44g  12Uncia211〜82B.C.
  Semis青銅表:サターン
裏:ガレー船の舳先
〜22g  6Uncia211〜86B.C.
  Triens青銅表:ミネルウア
裏:ガレー船の舳先
〜14g  4Uncia211〜86B.C.
  Quadrans青銅表:ヘラクレス
裏:ガレー船の舳先
〜11g  3Uncia211〜86B.C.
  Sextans青銅表:マーキュリィ
裏:ガレー船の舳先
〜7g  2Uncia211〜96B.C.
  Uncia青銅表:ローマ神
裏:ガレー船の舳先
〜4g  1Uncia211〜105B.C.
  Semuncia青銅表:マーキュリィ他
裏:ガレー船の舳先
〜2g  1/2Uncia211〜105B.C.






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