帝国期における銀貨

B.C.27年頃〜A.D.284年
ローマ帝国の銀貨(第I期)

アウグストゥスによって再構築された銀貨システムは、ローマ帝国の衰退とともに銀貨改悪の道をたどることになります。悪貨の歴史といっても過言ではありません。重量を軽くするだけでなく銀の純度も除々に下げられていきました。純度50%前後の改革としてカラカラ帝によって始められたアントニアヌス銀貨発行以前の悪貨の歴史を追ってみました。

参考:純度に関してはローマ帝国愚帝列伝の表10を参考にさせていただきましたが重量は独自調査ということをご了承ください。特に重量はコンモドゥウス帝、純度は、セプテミウス・セウェルス帝の治世から極端に悪化が進んでいきます。

 1.ユリウス・クラウディウス朝(B.C.27年〜A.D.68年)
 2.市民戦争期(68年〜69年)
 3.フラウィス朝(69年〜96年)
 4.五賢帝時代・アントニヌス朝(96年〜192年)
 5.セウェルス朝(193年〜235年)
 6.軍人皇帝時代(235年〜284年)

皇帝素材重量
(目安)
純度
(目安)
 アウグストゥス  デナリウス(Denarius) 3.8g前後 98%
 ティベリウス  デナリウス(Denarius) 3.7g前後 98%
 カリグラ  デナリウス(Denarius) 3.7g前後 98%
 クラウディウス  デナリウス(Denarius) 3.6g前後 98%
 ネロ  デナリウス(Denarius) 3.4g前後 93.5%
 ウェスパシアヌス  デナリウス(Denarius) 3.4g前後 91.3%
 ティトゥス  デナリウス(Denarius) 3.4g前後 92.5%
 ドミティアヌス  デナリウス(Denarius) 3.4g前後 93.5%
 ネルウァ  デナリウス(Denarius) 3.4g前後 93.3%
 トラヤヌス  デナリウス(Denarius) 3.4g前後 91.5%
 ハドリアヌス  デナリウス(Denarius) 3.4g前後 90%
 アントニヌス・ピウス  デナリウス(Denarius) 3.4g前後 88%
 マルクス・アウレリウス  デナリウス(Denarius) 3.4g前後 78.5%
 コンモドゥス  デナリウス(Denarius) 3.0〜3.4g前後 73.4%
 セプティミウス・セウェルス  デナリウス(Denarius) 3.2〜3.4g前後 55.5%
 カラカラ  デナリウス(Denarius) 3.1g前後 51%
 マクリヌス  デナリウス(Denarius) 3.2g前後 57.9%
 エラガバルス  デナリウス(Denarius) 3.0g前後 45.5%
 セウェルス・アレクサンデル  デナリウス(Denarius) 3.0g前後 45%


Photo説明Photo
>>>デナリウス(Denarius)<<<
コイン表:AVGVSTVS - 王冠を載せていないアウグストゥス帝の肖像。司教用の曲がった杖が背後に描かれています 。
コイン裏:C・MARIVS・TRO III・VIR - 髪を後ろで束ねそして額のあたりに宝石が装飾された王冠を 載いたダイアナ神(アウグストゥス帝の娘ユリア)の肖像が描かれています。
13B.C. , Denarius(3.88g)

写真提供:Classical Numismatic Group, Inc. (CNG)
>>>デナリウス(Denarius)<<<
コイン表:NERO CAESAR AVGVSTVS - 月桂樹の王冠を戴いたネロ帝の肖像。
コイン裏:IVPPITER CVSTOS - 右手に雷光を左手に王位を表わす笏を持つユピテル神の坐像が描かれています。
64-65発行 , Denarius(3.47g)

写真提供:Classical Numismatic Group, Inc. (CNG)
>>>デナリウス(Denarius)<<<
コイン表:IMP TRAIANO AVG GER DAC P M TR P COS V P P - 月桂樹の王冠を戴いたトラヤヌス帝の肖像。
コイン裏:SPQR OPTIMO PRINCIPI - コイン左手に祭壇が配置され右手にパテラを持ち左手に豊穣の角を持つゲニウス神が描かれています。
104-107A.D.発行 , Denarius(3.57g)

写真提供:Classical Numismatic Group, Inc. (CNG)




A.D.214年頃〜A.D.294年
ローマ帝国の銀貨(通貨改革:第II期)

アントニニアヌス銀貨(Antoninianus)、正式にはこのコインに関する名称は存在しなかったのですが、後世の学者が発行を企画したカラカラ帝の公式名称アントニヌスにちなんで名づけたと言われています。重量を5g前後としコインの価値を2デナリウスにする目的だったようですが実際の銀含有量は50%以下だったようです。
このアントニニアヌス銀貨は市民に受け入れられていき次第にデナリウス銀貨が鋳造されなくなってしまう原因を作りました。これによりアウグストゥス帝によって開始された銀貨システムは崩壊することとなりました。

貨幣の種類素材重量
(目安)
 アントニニアヌス(Antoninianus)   銀(silver) 5g前後


Photo説明Photo
>>>Antoninianus<<<
コイン表:ANTONINVS PIVS AVG GERM - フィブロで留めた皇帝のマントを羽織り胴鎧を身につけ光輝冠を戴いたカラカラ帝の肖像。
コイン裏:VICT PARTHICA - 左ひざの上にVO/XXの文字が打刻された卵型の盾を乗せたヴィクトリィ神の坐像が描かれています。コイン下部には矢筒とトランペットが配置されています。
217A.D.発行 , Antoninianus(6.24g)

写真提供:Classical Numismatic Group, Inc. (CNG)



A.D.294年頃〜A.D.313年
ローマ帝国の銀貨(通貨改革:第III期)

アルゲンテウス銀貨(Argenteus)、ディオクレティアヌス帝が指示した通貨改革によって鋳造された銀貨の呼称です。軍人皇帝時代に消滅するに至ったデナリウス銀貨の復活を目指したもので重量は1/96ポンドの3.4gとしました。アウグストゥスの開始した重量には及ばないもののローマ帝国の経済再建を意図していました。

貨幣の種類素材重量
(目安)
 アルゲンテウス(Argenteus)   銀(silver) 3.4g前後


Photo説明Photo
>>>Argenteus<<<
コイン表:DIOCLETIANVS AVG - 月桂樹の王冠を戴いたディオクレティアヌス帝の肖像。
コイン裏:VICTORIAE SARMATICAE - 6つの見張り塔を備えるシティゲイトの前の祭壇で生贄の儀式を 執り行う分割統治の4正副皇帝が描かれています。
295A.D.発行 , アルゲンテウス(Argenteus)3.4g

写真提供:Classical Numismatic Group, Inc. (CNG)


A.D.313年頃〜A.D.476年
ローマ帝国の銀貨(通貨改革:第IV期)

シリクァ銀貨、コンスタンティヌス大帝が指示した通貨改革によって鋳造された銀貨の呼称です。ディオクレティアヌス帝が始めたアルゲンティウス銀貨と同等の価値としたもので重量は1/96ポンドの3.4gとしました。 ローマからコンスタティノポリスへ遷都した330年頃には大銀貨ミリアレンセを発行しています。重量は1/60ポンドの5.4gとしました。 大帝の死後、コンスタンティヌス朝、ユリアヌスII世、ウァレンティニアヌス朝、テオドシウス朝と制度そのものは引き継がれていきましたが数量、重量ともに減少していきテオドシウス朝滅亡以降の西ローマ帝国では蛮族の侵入の影響から僅かな銀貨の発行に留まりました。

貨幣の種類素材重量
(目安)
 シルクァ(Siliqua)   銀(silver) 3.4g前後
 ミリアレンセ(Miliarense )   銀(silver) 5.4g前後


Photo説明Photo
>>>Siliqua<<<
コイン表:レジェンド無し - 目線を神への祈りの方へ伸ばす装飾をほどこしていない王冠を戴いたコンスタンティヌス大帝の肖像。
コイン裏:CONSTANTINVS AVG - ヤシの枝を左手に持ち右手にリースを持ちながら歩行前進するヴィクトリィ神が描かれています。コイン下部にはmintマークを表すSISの文字が打刻されています。
326-327A.D.発行 , シルクァ(Siliqua)3.10g

写真提供:Classical Numismatic Group, Inc. (CNG)
>>>Miliarense<<<
コイン表:CONSTANTINUS MAX AVG - 王冠を載せていないコンスタンティヌス大帝の肖像。
コイン裏:CRISPVS ET CONSTANTINVS CC - クリスプスとコンスタンティヌスII世の肖像が描かれています。
320-324A.D.発行 , ミリアレンセ(Miliarense)4.69g

写真提供:Numismatica Ars Classica






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